S4ダブル ブーストきょうせい+トリックルーム
S3・S4にかけて自分なりに試行錯誤した構築がそれなりに納得の行く形になったので、まとめることにしました。たいした試合数も潜れておらず、成績もぼちぼち(最終8000位台、レート1600弱)ですが、アイデア自体は悪くなかったのではないかと思っています。
戦術の概要
- 初手はブーストエナジーを消費しSを上昇させたテツノツツミにきょうせいヤレユータンでこだわりメガネを渡し、相手の先発に上から高火力を押し付けます。
- 相手がテツノツツミの処理に追われている間にヤレユータンでトリックルームを展開します。
- 集中攻撃で倒れたテツノツツミの後に、鈍足エース(ニンフィアないしドオー、通りの良い方)を繰り出し、ヤレユータンの「さいはい」で1ターン2回行動を行います。
- テツノツツミが1ターン目を生き残ってしまった場合でも、「さいはい」で再度上から攻撃することが可能です。
- 相手がまもるでトリックルームのターン数を稼いできても、その隙にドオーの「のろい」に「さいはい」することでA・Bを2ランク上昇させることができます。
- トリックルーム終了後はエースと後続の高速スイーパー(カイリューないしハバタクカミ)で残りの相手を倒します。場合によってはエースを両方選出しスイーパーを選出しないこともありました。
個別解説と採用経緯
ステータス配分に関しては、細かいメモを取っていなかった関係で、特に重要な部分のみ詳細を記載しています。
ヤレユータン
特性:きょうせい 性格:のんき(B+/S-) テラス:ひこう
努力値:S8(個体値0, 実数値59)残りHB 持ち物:こだわりメガネ
技:トリックルーム さいはい かわらわり ちょうはつ
- 特性のきょうせいは味方が道具を消費したときに自分の道具を渡します。ブーストエナジーを持たせたパラドックスポケモンは(晴れ・エレキフィールドで先に特性が発動しない限り)即座にブーストエナジーを消費するので、初手にほぼ確実にきょうせいを発動させることができます。
- 特性きょうせいには他にフラージェスがいますが、さいはいとトリックルームを使う関係でヤレユータンを採用しています。
- Sはトリル下で(同じくS60族である)ニンフィアの後に動けるよう最遅+1にしてあります。
- エースのドオーがヤレユータンを巻き込まずじしんを連発できるよう、ひこうテラスタルで採用しています。
- 初手でトリックルームを成功させた後は基本的にさいはいを連打し、隣のエースに2回行動をさせます。
- ちょうはつは特にモロバレルの催眠とワイドガード対策に重宝しました。
- かわらわりの枠は当初イカサマにしていましたが、エースにさいはいしたほうが効率がいいと感じたので、壁を破壊してエースをサポートできるかわらわりに変更しました。Aは貧弱ですがバンギラス相手には有効なダメージソースになりました。
- ブーストきょうせいコンボをしない場合は、ニンフィアにのどスプレーを消費させて眼鏡を渡すこともできます。
テツノツツミ
特性:クォークチャージ 性格:おくびょう(S+/A-) テラス:みず
努力値:CS全振り 持ち物:ブーストエナジー
技:ふぶき ハイドロポンプ フリーズドライ クイックターン
- 先発初手でブーストエナジーを消費、Sを上昇させながらこだわりメガネを受け取ることで相手の先発に大ダメージを与えつつ、ヤレユータンがトリックルームをする隙を作ります。
- 理論上どのパラドックスポケモンでも同様のコンボを成立させる事はできますが、いかくの影響を受けない特殊型で、タイプ一致高火力の範囲技(ふぶき)が使え、そしてパラドックス中最速であるテツノツツミが最終的に一番安定するという結論に至りました。
- タイプ一致の特殊範囲技が使える高速パラドックスポケモンにはほかにハバタクカミ(マジカルシャイン)・テツノドクガ(ねっぷう)がおり、命中率まで考慮した相手2体への合計火力指数の期待値はほぼ互角なのですが、今回の構築では後発のニンフィアとのタイプの兼ね合いの関係でテツノツツミが最も適任という判断になりました。
- C252テツノツツミのふぶき:C実数値176 * 威力110 * 一致1.5 * 眼鏡1.5 * 命中0.8 * ダブルダメージ1.5 = 52,272
- C252ハバタクカミのマジカルシャイン:187 * 80 * 1.5 * 1.5 * 1.0 * 1.5 = 50,490
- Sブースト調整振りテツノドクガのねっぷう:177 * 95 * 1.5 * 1.5 * 0.9 * 1.5 = 51,075
- タイプ一致の特殊範囲技が使える高速パラドックスポケモンにはほかにハバタクカミ(マジカルシャイン)・テツノドクガ(ねっぷう)がおり、命中率まで考慮した相手2体への合計火力指数の期待値はほぼ互角なのですが、今回の構築では後発のニンフィアとのタイプの兼ね合いの関係でテツノツツミが最も適任という判断になりました。
ニンフィア
特性:フェアリースキン 性格:れいせい(C+/S-) テラス:みず
努力値:H92 B164 C252 S0(個体値0, 実数値58) 持ち物:のどスプレー
技:ハイパーボイス テラバースト でんこうせっか まもる
- テツノツツミが倒れた後に繰り出して、ヤレユータンのさいはいとあわせてハイパーボイスを連打します。のどスプレーで攻撃しつつCを上げることができるので、特にさいはいと相性のいい範囲アタッカーとして採用しました。
- テラスタイプは天敵であるサーフゴーのゴールドラッシュを半減できるほのお・でんき・みずを試しましたが、ハイパーボイスをワイドガードで防いでくるグレンアルマ・キョジオーンに加え、トリル下でもしんそくで先制してくるウィンディ・フェアリー1/4のテツノドクガに通りの良いみずテラバーストが便利という結論になりました。
ドオー
特性:ちょすい 性格:しんちょう(D+/C-) テラス:くさ
努力値:AB全振り 最遅 持ち物:たべのこし
技:じしん どくづき いわなだれ のろい
- ニンフィアの苦手なほのお・どく・はがねに対して抜群を取れるじめんタイプの範囲技であるじしんを強く使える鈍足高耐久アタッカーで、かつ相手の時間稼ぎに合わせて積み技を使えるポケモンということで白羽の矢が立ちました。
- 特殊耐久は無振りD補正のみでもかなり高い(H205 * D132 = 27,060)く、かつBに不安があるのでAB全振りにしましたが、本来役割対象であるはずのグレンアルマの(フィールドなし)ワイドフォースやサーフゴーの(テラス)ゴールドラッシュで押し切られることがあったので、のろい前提でもうすこしバランス寄りの耐久調整にしてもいいと思いました。
- わざはメインウエポンになるじしん、じめんと相性補完がよくさいはいとあわせて高確率のひるみ(命中込みで単体のひるみ確率46%)が狙えるいわなだれ、タイプ一致の単体打点になるどくづき、相手のまもるにあわせて連発できると強いのろい、の4つにしました。せっかく耐久が高いので、攻撃技をどれか切ってじこさいせいに変えてもいいかもしれないです。
カイリュー
特性:マルチスケイル 性格:わんぱく(B+/C-) テラス:ノーマル
努力値:H248 A100 B36 D60 S60(実数値108) 持ち物:じゃくてんほけん
技:しんそく アイススピナー りゅうのまい まもる
- トリックルーム終了後のスイーパー枠その1。トリックルームの持続にかかわらず高火力のしんそくで先制できること、ドオーのじしんに巻き込まれないことを評価して採用しました。
- トリックルーム最終ターンにりゅうのまいをすることを意識した調整振りだったような気がしますが意図を忘れました。実際にはほとんど攻撃技しか打たなかったので改良の余地ありです。
ハバタクカミ
特性:こだいかっせい 性格:おくびょう(S+/A-) テラス:フェアリー
努力値:CS全振り 持ち物:きあいのタスキ
技:シャドーボール マジカルシャイン ちょうはつ まもる
- スイーパー枠その2。この枠も最後まであまり安定しませんでしたが無難に強かった印象です。
メジャーな構築への対応
追い風+イダイナキバ(など)
一番得意なタイプの構築です。ふぶきを撃ちながらトリックルームを展開します。
グレンアルマ+イエッサン
どのみちこのゆびとまれをしてくるイエッサンにハイドロポンプを撃ちつつトリックルームをします(外すと厳しいです)。グレンアルマはイエッサンをワイドガードで守る必要がなく、ニンフィアは珠ワイドフォースを耐えるので、次のターンはさいはいハイパーボイスをし、その次のターンにみずテラバーストでグレンアルマを倒しながら後続を攻撃します。
コノヨザル+イッカネズミ
ふぶきをしながらトリックルームをします。コノヨザルは火力をふんどのこぶしに頼っている手前ヤレユータンに打点が少ないです。ニンフィアと対面したコノヨザルはテラスタル(ほのお・はがね)を切ってくる場合が多いので、ニンフィアはまもりつつヤレユータンでちょうはつをしてビルドアップを封じるなどします。
ヘイラッシャ+シャリタツ
テツノツツミのフリーズドライで弱点を突きつつ、トリックルームを展開する基本の動きを取ります。じしん・ウェーブタックルであればA+2の状態でもテツノツツミが耐えるので、さいはいでフリーズドライをもう一度打ち込めるはずですが(一番多い)はがねテラスを切られると構築全体として厳しいです。
ルガルガンにハイドロポンプを撃ちつつトリックルームをします。すなかきルガルガンはスカーフテツノツツミより速いですが、テツノツツミはいわなだれは耐えます。あいてがいわなだれを重ねてきて、初ターンにテツノツツミが倒され、かつヤレユータンがひるんでしまうとかなり厳しいですが、トリックルームができなくてもテツノツツミの高火力とニンフィアのでんこうせっかを合わせれば巻き返しが可能な時もあります。
対トリパ対策
環境に多くニンフィア・ヤレユータンの60族より遅いポケモンとして、テツノカイナ・モロバレル・コータス・アラブルタケ・キョジオーンなどがいます。このうちコータスのみドオーと同速です。テツノカイナは相性的にニンフィア・ドオーで強く出れるのでなんとかなっていた印象です。モロバレル・アラブルタケの催眠はちょうはつとドオーのくさテラスで対策します。相手がコータスを通そうとしてきているときは、トリル返しでテツノツツミを通すなどします。キョジオーンは主にワイドガードをしてくる隙にニンフィアのみずテラバーストで処理しました。
おわりに
我ながらなかなかよくできた構築だと思っていたのですが、(特にメジャーな構築への対応について)文章にしてみると意外と穴が多いという感想になりました(そもそも構築を組む段階でこういう詰将棋的なエクササイズをもっとするべきということでしょう)。レギュレーションCでは強力なあくタイプが増える都合、ヤレユータンを核にした本ギミックは通しづらくなると思いますが、わざわざシリーズから改名したからには今後もレギュレーションBがランクマッチに戻ってくる可能性はあると思うので、その際にはさらなる発展形を考えてみたいと思います。
種族値の分布を可視化する
ポケットモンスター本編シリーズにおいて、それぞれのポケモンのステータスは、ファンダムで一般に「種族値」「個体値」「努力値」と呼ばれる隠しパラメタと、ポケモンの「せいかく」によって決定づけられます。なかでも各ポケモン種族ごとに設定されている「種族値」は、タイプとともにそのポケモンの対戦における性能を決定づける重要なパラメタです。各ポケモンの種族値とそのランキング表は攻略サイト等で確認できますが、ここではこうげき・ぼうぎょ等6つのステータスに対応する種族値を別々に比較するのではなく、その関係性を多変量解析で可視化することで、種族値配分のデザインの傾向を明らかにすることを目指します(なお、類似の解析を試みた記事は過去にもいくつか存在しますが、解析ツールのデモとしての性格が強かったり、データが古かったりとあまり満足の行くものではなかったため、自分でやり直してみることにしました)。
使用するデータとツール
最新作スカーレット・バイオレットの「パルデア図鑑」に記載されている約400体のポケモンの種族値を対象にしました。データはこちらのページを参考にしました。解析とデータ可視化にはnumpy・sklearn・matplotlibを利用しました。
種族値のしくみと範囲
ポケモンの6つのステータス(HP・こうげき・ぼうぎょ・とくこう・とくぼう・すばやさ)にはそれぞれ種族値と呼ばれるパラメタが設定されており、対人戦で用いられるレベル50のポケモンの実際の(ゲーム中で表示される)ステータスは、育て方等に応じて、
の値を取ります。
対戦で主に用いられる最終進化系のポケモンでは、6ステータスの種族値の合計はおおよそ450から600の範囲に収まっており、また各ステータスの種族値は、100以上だと高く、70以下だと低いというのがおおよそ一般的な感覚だと思います。対戦で用いられない進化前のポケモンには、合計種族値が200・300台のものが多く、また通常対戦では使用が禁止されている伝説のポケモンの合計種族値は600台後半から700代前半に設定されています。
なお、以下ではファンダムで一般的なステータス名の略称(H:HP、A:こうげき、B:ぼうぎょ、C:とくこう、D:とくぼう、S:すばやさ)を使用します。
種族値と種族値配分の相関関係
まずはじめに、各種族値間の相関係数を計算しました(下図左)。この結果、前処理をしない状態ではすべてのステータスの種族値が正に相関することがわかりました。進化をするほとんどのポケモンで、進化によってすべてのステータスの種族値が高くなることを考えれば、これは当然の結果と言えます。
続いて、それぞれのポケモンの6つのステータスの種族値を、合計種族値で割った「種族値配分」の相関係数を計算すると(下図右)、こうげき(A)とぼうぎょ(B)、とくこう(C)ととくぼう(D)のペアだけが正に相関し、それ以外のステータス(とくにAとD、SとH・B・Dなど)は負に相関することがわかりました。このことから、例えば:
といった傾向を見て取ることができます。
主成分分析でステータス配分の軸を見つけ出す
つづいて、主成分分析(PCA)を用いて、種族値の分布の可視化を行いました。主成分分析とは、多次元データのばらつきを最もよく説明できる「軸」を、元の変数(ここでは6つのステータスの種族値)の組み合わせとして求める手法です。パルデア図鑑約400体から抽出された6つの軸(主成分)は、次図のようになりました:
これらを特に寄与の大きいステータスだけかいつまんで定性的に要約すると、次のようになります。
- 第1主成分:全種族値の合計
- 第2主成分:(C+S) - (H+A+B)
- 第3主成分:(H+C+D) - (A+S)
- 第4主成分:H - B
- 第5主成分:(B+D) - (A+C)
- 第6主成分:B - (A+D)
さらに各主成分の寄与率(それぞれの軸がデータのばらつきの何割を説明できるか)を可視化すると、第1主成分がデータの4割強、第2から第4主成分が1から2割、第5・第6主成分がそれぞれ5%程度を説明できることがわかりました。
以下では、それぞれの主成分軸上におけるポケモンの分布を可視化し、各軸が対戦の文脈で持つ意味を考えます。
第1主成分:合計種族値
上図はパルデア図鑑の全ポケモンを第1・第2主成分軸上にプロットしたものです(種族名は見やすさのためランダムに一部だけを表示しています)。横軸の第1主成分は合計種族値にほぼ対応するため、横軸右端にはコライドン・ミライドン(合計670)などをはじめとする強力なポケモンが、左端にはコイキング・ユキハミ(それぞれ合計200・185)などが位置しているのが見て取れます。データ点の色分けはK-Means法によるクラスタリングの結果を示しており*1、合計種族値およそ400以下の未進化ポケモンが一つの大きなクラスタを形成しているのがわかります(他のクラスタに関しては後述)。なお同じ散布図を合計種族値でカラーリングしたものが下図になります。
第2・第3主成分:攻守の役割が明確なポケモン
第1主成分が合計種族値を表現しているので、第2主成分以降は種族値の配分を表現していると言えます。下図は第2・第3主成分軸上にすべてのポケモンをプロットしたものです。以下、種族名はグラフの中心から遠い上位のものだけを表示しています。
まず、おおよそ(C+S) - (H+A+B)で表される第2主成分の上位(グラフ右側)には、ゲンガー・サンダース・エーフィに代表される高速・低耐久の特殊アタッカーが位置しているのがわかります。その対極(グラフ左側)には、物理の火力と耐久値が高くかつ鈍足の、いわゆる「物理受け」として運用されることの多いポケモン(クレベース・ヘイラッシャ・キョジオーン)が位置しています。よって第2主成分は、「特殊アタッカー/物理受け」の軸と考えることができそうです。
続いて、おおよそ(H+C+D) - (A+S)で表される第3主成分軸の上位(グラフ上側)には、ヤドキング・ニンフィアのような特殊火力と耐久に優れた鈍足のポケモンが、下位(グラフ下側)にはダグトリオ・マニューラのような高速・低耐久の物理アタッカーが位置しているのが見て取れます。つまり、第3主成分は「特殊受け/物理アタッカー」の軸に対応していると言えるでしょう。
またデータ点の色に着目すると、前述の未進化クラスタ(青)と、ラッキー・ハピナスだけからなるクラスタ(茶)を除く残り4つのK-Meansクラスタが、第2・第3主成分平面上の東西南北にそれぞれ位置し、それぞれ特殊アタッカー(赤)・物理アタッカー(緑)・物理受け(オレンジ)・特殊受け(紫)に対応していることがわかります。総じて、第2・第3主成分平面で中央から遠くに位置しているポケモンには、物理・特殊どちらかのアタッカー・受けとしての役割が明確で、対戦で活躍させやすいキャラクターが多いと言えると思います。
なお、第2・第3主成分平面上でのデータ点を各ステータスの種族値で色分けすると(下図)、アタッカーの集まる南東に向かってS、受けポケモンの集まる北西に向かってH、物理ポケモンの集まる南西に向かってA、特殊ポケモンの集まる北東に向かってCの値が高くなっていくのをきれいに見てとることができます。
第4主成分:極端なHPステータス
第4主成分(上図横軸)は、おおむねHとBの差に対応します。この図でまず目につくのが、縦横両軸で外れ値となっているラッキーとハピナスです。ラッキーとハピナスは、極端に高いHP種族値と(ラッキー250、ハピナス255)、極端に低いぼうぎょとこうげき種族値(A・Bともにラッキーは5、ハピナスは10)という、他のポケモンの分布から大きく外れたステータスを3つも持つため、これらを表現するのに複数の軸が必要になっていると考えられます。第4主成分の次点には、プクリン・フワライド・ハルクジラといった、HPとぼうぎょの種族値に100近い差を持つポケモンが位置しています。逆に、第4主成分の負の極端には、ドヒドイデ・パルシェンのようなぼうぎょがHPに比べて100近く高いポケモンが位置しているのが見えます。
ちなみに、実際の対戦におけるポケモンの(物理方面の)耐久性能は、HとBの実際のステータス(実数値)の積によって決まるので、HとBの実数値の和が一定であれば、両者は近ければ近いほど耐久性能は高くなるといえますが、冒頭で述べた通り、B実数値に比べてH実数値には種族値から大きい「ゲタ」が履かされるため、B種族値が高くH種族値が低い第4主成分下位のポケモンのほうがHとBの実数値が近くなりやすく、高い物理耐久を持っていると言えます。
第5・第6主成分:両受け・両刀と「たすき掛け」
合わせてデータのばらつきの残り1割程度を説明する第5・第6主成分は、第2・第3主成分で表現される物理・特殊どちらか一方のアタッカー・受けという役割に当てはまらない、いわば「変わり者」を表現するための軸と言えます。
第5主成分(上図横軸)は2つの防御側種族値(BとD)の和と、2つの攻撃側種族値(AとC)の和との差に対応します。したがって、第5主成分上位(グラフ右側)にはドヒドイデ・ブラッキーなど、低火力ながら物理・特殊両方の耐久が高いいわゆる「両受け形」のポケモンが位置し、逆に下位(グラフ左側)には、ノクタス・バクーダ・ドンカラスなど、物理・特集両方の火力が高い「両刀形」のポケモンが位置しています。あらゆるポケモンは物理・特殊の攻撃を受ける機会があるため、耐久ステータス面で明確な弱点のない「両受け」ポケモンには(ドヒドイデ・ブラッキーをはじめ)対戦で頻繁に用いられるものが多い一方、「両刀」的種族値配分のポケモンには、物理・特殊どちらか一方にステータスを集中させた方が火力が出る反面、それでは使わない方の攻撃側種族値が無駄になってしまう(逆に両方の攻撃側種族値にステータスを振ると今度はすばやさや耐久が犠牲になりすぎる)といった問題から、対戦で用いられるものは少なくなっています。
最後の第6主成分(上図縦軸)は、おおむねBと(A+D)の差に対応します。上述の通り、物理の攻守(AとB)および特殊の攻守(CとD)の配分は正の相関を持ちますが、第6主成分はこのパターンから外れた「たすき掛け」的な配分を持ったポケモンを表現しています。第6主成分下位(グラフ下側)にはAとDが高いポケモン(ブースター・ヌメルゴン・エルレイド)が、上位(グラフ上側)には、BとCが高いテツノツツミ(および極端にBの高いパルシェン・イシヘンジン・ミミズズなど)が位置しています。物理と特殊の内部で攻守が正に相関するという全体的なパターンを考えると、物理火力の高い特殊受け・特殊火力の高い物理受けは(ステータス面だけを見れば)相手に有利を取りやすいと言えそうですが、これらの「たすき掛け」ポケモン(とくにAとDの高いポケモン)の使用率がそれほど高くないのはやや意外かもしれません。
特定ポケモン系列の可視化
最後に、特に対戦での性能との関係が深そうな第2・第3主成分平面上で、いくつかの特定のグループのポケモンの位置関係を可視化してみることにしました。
イーブイとその進化系
イーブイの8つの進化系の種族値は、60/65/65/90/110/130を入れ替えることでデザインされています。このうち、C・D・Sの高いサンダース・エーフィが「特殊アタッカー」のクラスタ(赤)に、B・Aの順に高いリーフィアが物理受けのクラスタ(オレンジ)に、またAとDが高い「たすき掛け」のブースターが図中央に、そしてそれ以外が特殊受け(低速特殊)のクラスタ(紫)に位置しています。特に対戦で弱いとネタにされがちなブースターがイーブイと並んでいるのが面白いですね。
スカーレット・バイオレットの目玉要素の一つとして新たに投入された古代・未来のポケモン群で、いずれも合計種族値が570(ないし590)と高めに設定されています。高速特殊アタッカーのハバタクカミ、鈍足物理高耐久高火力のテツノカイナが特に第2主成分で極端な位置にあるのがわかります。両受け的なサケブシッポや、ADたすき掛けのチヲハウハネ・トドロクツキは第2主成分(特殊アタッカー/物理受け)軸では中央に位置しています。第3主成分(物理アタッカー/特殊受け)軸のばらつきが控えめなのも特徴的ですね。
さいやくポケモン
スカーレット・バイオレットで登場したいわゆる「準伝説」枠の4体は、それぞれ特殊アタッカー・物理アタッカー・物理受け・特殊受けの極に位置するよう意図的にデザインされているのがよくわかります。彼らはそれぞれさらに自分の役割を伸ばすような形で相手の能力(たとえば物理アタッカーのパオジアンであればぼうぎょ)を下げる専用の特性を持っているため、実質的には東西南北のさらに極端な所に位置していると考えることもできるでしょう。
おわりに
今回の分析で、対戦で標準的なポケモンの役割から種族値の分布をうまく説明できるというのが見えたのは非常に面白かったです。対戦におけるそれぞれのポケモンの強さはわざやタイプ、特性に大きく左右されるため、これらの可視化が直接対戦に役立つかというと微妙ですが、同時にタイプをテラスタルで変更することが可能になった最新作では素のステータス配分の重要性が増しているというのもおそらく真実であり、新たな育成対象を自力で発掘する一助くらいにはなるのかもしれないと思いました。
今回は見やすさなどを重視して分析対象をパルデア図鑑に限定しましたが、1000体強の全ポケモンを対象にした場合に主成分の順序が変動したりするかは見てみても面白そうです。またポケモンの種族値配分は世代を重ねるごとに役割を意識した(”尖った”)ものになってきているという印象もあるので、そのあたりもそのうち定量的に比較できればと思っています。